先日、我が家のポストに妻と二人の娘に宛てた1通の手紙が届いた。
見覚えのある筆跡の手紙、その差出人は10年前の私であった。差出人の住所は、愛知県犬山市の博物館明治村で、住所の上には次の文章が添えられている。博物館明治村から投函された10年前のお手紙です。宛先不明の場合は下記住所までご返送下さい。
明治村は数多くの貴重な明治時代の建築物等を現地から犬山の地に移築した野外博物館である。そして、明治村の中には、1909年(明治42年)に伊勢神宮外宮の大鳥居前に建てられた宇治山田郵便局舎も移築されている。圧巻の建築物で重要文化財となっている。
この宇治山田郵便局舎を使用した博物館明治村簡易郵便局では、「はあとふるレター」との名称で、定形サイズの封書を預かり、10年後の同じ月に指定された住所宛に預かった封書を投函してくれる粋なサービスがある。
私は2011年5月、出張ついでに1人で明治村を訪れていたわけであるが、この時、宇治山田郵便局舎に入り、「はあとふるレター」の企画に感嘆し、家族宛てにお手紙を書き、郵便窓口に10年後の配達を託したのである。
所定の便箋と封筒を購入して、局内の作業台の上で、はてさて何を書き留めるものかとしばし案じたように覚えている。そして、一気に手紙を書き出したが、途中、なぜか涙がぼろぼろあふれ出たことははっきりと覚えている。
そんな手紙が先日、届いたのである。何を書いたかまったく覚えておらず、封は開けずに妻に手渡した。妻と娘が読み終えた後、何食わぬ顔で、緊張しながら手紙を読んでみた。気の利いた文章を期待したが、たいしたことは書いていなかった。
何はともあれ、家族が、そして私が10年後も元気に暮らしていたことを祝いたい。